株式会社産経リサーチ&データ

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CASE STUDY 03

奈良県の納骨堂に対するニーズの分析

都市部と地方における
納骨堂へのニーズの相違について

関西大学 宮本勝浩 名誉教授  ×  産経R&D2021年3月実施

近年増加傾向と言われる納骨堂へのニーズについて産経リサーチ&データが調査を実施。
調査結果を関西大学の宮本名誉教授に分析いただいたところ、
都市部と地方で興味深い違いがあることがわかりました。

実施期間
11日間
2021年01月17日~27日
調査対象者
  • 産経iD会員
実施件数
3212サンプル
年齢別分布
  • 49歳以下14.9%
  • 50〜59歳26.7%
  • 60〜69歳32.3%
  • 70〜79歳20.8%
  • 80歳以上5.1%
  • 不明0.1%
男女比率
  • 男性60.9%
  • 女性39.1%
構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100とはならない。

近年、全国的に従来型の墓地・墓石から簡易型の納骨堂へのニーズが移りつつあるように思われる。ただ地域的に見ると、納骨堂へのニーズの高まりが顕著な都市部と、それほどニーズが高まらない地域との間にかなりの相違が見られる。本報告書は、納骨堂に対するニーズが高まって来ている大阪府・東京都とそれほどニーズが高まって来ていない奈良県との相違の現状とその要因などについて計量的に分析したものである。

DATA
01
納骨堂に対する人々のニーズ

「産経リサーチ&データ」が2021年3月に発表したのアンケート調査によると、全国、奈良県、大阪府、東京都の人々の納骨堂に対するニーズは次のようになる。

第1表納骨堂に対する人々のニーズ
  • 全国
  • 奈良県
  • 大阪府
  • 東京都
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
利用したい 15.9% 10.0% 13.9% 19.4%
どちらかというと
利用したい
28.6% 30.0% 29.4% 30.1%
どちらかというと
利用したくない
14.0% 26.0% 15.0% 12.6%
利用したくない 13.6% 8.0% 13.9% 11.2%
わからない 27.9% 26.0% 27.8% 26.7%

次に、第1表を基にして、奈良県、大阪府、東京都の人々の納骨堂のニーズが全国平均からどの程度の乖離があるかを、指数を用いて分析する。分析結果は第2表の通りである。全国平均を1 として、1より小さい数値の場合は全国平均より低く、1より高い数値の場合は全国平均より高いことを示している。

第2表納骨堂に対する人々のニーズの都府県別比較分析(その1)
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
利用したい 1.00 0.63 0.87 1.22
どちらかというと
利用したい
1.00 1.05 1.03 1.05
どちらかというと
利用したくない
1.00 1.86 1.07 0.90
利用したくない 1.00 0.59 1.02 0.82
わからない 1.00 0.93 1.00 0.96

さらに、納骨堂を利用したい、またはどちらかというと利用したいという納骨堂利用肯定派と、納骨堂を利用したくない、またはどちらかというと利用したくないという納骨堂利用否定派を、同様に指数を用いて分析した。分析結果は第3表の通りである。

第3表納骨堂に対する人々のニーズの都府県別比較分析(その2)
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
利用肯定派 1.00 0.90 0.97 1.11
利用否定派 1.00 1.23 1.05 0.86

第2表と第3表の分析から、次のような結論を導出することができる。

  • 1

    奈良県の人々の納骨堂に対する人々のニーズは、全国平均より低い。つまり、奈良県の人々は平均的日本人と比べて納骨堂に対するニーズは少ないと言える。

  • 2

    他方、大都市である東京都では奈良県と比べて、納骨堂に対するニーズは全国平均と比べて高く、また利用否定派は全国平均より低いという結果が得られた。その結果、東京都の人々の納骨堂へのニーズは高いと言うことができる。

  • 3

    しかし、奈良県の隣の大阪府は大都市圏であるにもかかわらず、納骨堂を利用したい、またはどちらかというと利用したいという利用肯定派は全国平均より低く、また納骨堂を利用したくない、またはどちらかというと利用したくないという納骨堂否定派は全国平均より高いという奈良県の人たちの納骨堂に対するニーズと同様の結論が得られた。この分析により、納骨堂に対するニーズについては大都市圏である大阪府と、そうではない奈良県が同じような結論が導き出されたという非常興味深い結果が得られたことになる。

DATA
02
納骨堂に対する人々の意識

前節では、納骨堂に対する人々のニーズについて分析をしたが、本節では納骨堂に対する人々の意識を、肯定的(ポジティブ)な理由と否定的(ネガティブ)な理由を分析する。前述の「産経リサーチ&データ」が2021 年3 月に発表したのアンケート調査によると、全国、奈良県、大阪府、東京都の人々の納骨堂に対する肯定的な理由は複数回答で次のようになる。

第4表納骨堂に対する人々の肯定的な理由(%)
  • 全国
  • 奈良県
  • 大阪府
  • 東京都
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
墓石を立てるのに
比べて安価だから
43.6% 45.0% 43.6% 49.0%
墓石を継承する人が
少ない(いない)から
51.0% 60.0% 50.0% 52.0%
子どもや家族に
迷惑をかけたくないから
65.8% 75.0% 61.5% 65.7%
今のお寺などとの付き合い、
宗派を変えたいから
7.6% 20.0% 2.6% 3.9%
掃除の負担が
少ないから
34.2% 40.0% 26.9% 35.3%
天候に左右されず
お参りができるから
33.3% 30.0% 34.6% 35.3%
自宅からの距離や
交通の便がいいから
27.3% 10.0% 35.9% 29.4%
周囲の環境、
雰囲気がよさそうだから
11.1% 20.0% 9.0% 8.8%
管理や運営形態に
魅力を感じたから
21.7% 30.0% 16.7% 20.6%
その他 2.5% 0.0% 1.3% 0.0%

第4表のデータに基にして、奈良県、大阪府、東京都の人々の納骨堂に対する人々の肯定的な理由が全国平均からどの程度の乖離があるかを、指数を用いて分析する。分析結果は第5表の通りである。全国平均を1として、1より小さい数値の場合は全国平均より低く、1より高い数値の場合は全国平均より高いことを示している。

第5表納骨堂に対する人々の肯定的な理由の都府県別比較分析
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
墓石を立てるのに
比べて安価だから
1.00 1.03 1.00 1.12
墓石を継承する人が
少ない(いない)から
1.00 1.18 0.98 1.02
子どもや家族に
迷惑をかけたくないから
1.00 1.14 0.94 1.00
今のお寺などとの付き合い、
宗派を変えたいから
1.00 2.63 0.34 0.51
掃除の負担が
少ないから
1.00 1.17 0.79 1.03
天候に左右されず
お参りができるから
1.00 0.90 1.04 1.06
自宅からの距離や
交通の便がいいから
1.00 0.37 1.32 1.08
周囲の環境、
雰囲気がよさそうだから
1.00 1.08 0.81 0.79
管理や運営形態に
魅力を感じたから
1.00 1.38 0.77 0.95
その他 1.00 0.00 0.52 0.00

第5表の分析から、納骨堂に対する肯定的な理由について次のような結論が導出される。

  • 1

    奈良県では納骨堂に肯定的な理由の中では、「今のお寺などとの付き合い、宗派を変えたいから」という理由が全国で見ても圧倒的に多いのは驚きである。これにより、奈良県ではこれまでのお寺などとの付き合いに非常に不満のある檀家が予想外に多いことがわかる。お寺の関係者の檀家とのお付き合いについての検討材料になると考えられる。

  • 2

    奈良県では、納骨堂に対して肯定的な意見として、「墓石を立てるのに比べて安価だから」と「納骨堂の管理や運営形態に魅力を感じたから」という理由が、全国と比べて高いのは予想外の結果であった。歴史があり、古い考えの人が多いと考えられる奈良県の人々の中で、結構合理的、経済的な考えをしている人が多いことに驚いた。このことから、今後奈良県でも納骨堂の需要が伸びる可能性を示している。

  • 3

    奈良県の隣の大阪府とは、納骨堂に対する肯定的な意見の理由が奈良県とは相違のあることがわかる。特に、大阪府では納骨堂の費用や維持費などよりも「交通の便」の良いことが圧倒的な魅力になっていることがわかる。しかし、大阪府は東京都と並んで大都市であるにも関わらず、東京都とは納骨堂に対する肯定的な理由にかなりの相違のあることもわかる。

次に、前述の「産経リサーチ&データ」が2021年3月に発表したのアンケート調査による全国、奈良県、大阪府、東京都の人々の納骨堂に対する否定的な理由は複数回答で次のようになる。

第6表納骨堂に対する人々の否定的な理由(%)
  • 全国
  • 奈良県
  • 大阪府
  • 東京都
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
先祖代々家族の
お墓があるから
50.2% 47.4% 46.0% 50.9%
お墓をずっと
継承してほしいから
22.5% 17.9% 20.6% 18.8%
宗派があるから 7.8% 6.4% 5.5% 5.2%
お寺などの
付き合いがあるから
9.0% 11.5% 8.8% 6.3%
お供えするものに
制限があるから
1.2% 0.0% 0.4% 1.1%
お参りする場所が
限られているから
4.6% 5.1% 3.3% 3.7%
納骨堂のデザインが
合わないから
4.4% 7.7% 6.3% 4.1%
周囲の環境、雰囲気が
気に合わなさそうだから
9.6% 10.3% 11.0% 10.3%
建物施設の運営、
維持管理に不安があるから
24.3% 33.3% 26.8% 21.8%
散骨希望 3.4% 1.3% 1.1% 3.0%
樹木層希望 2.3% 1.3% 1.8% 2.6%
墓不要、納骨不要 4.0% 2.6% 2.2% 5.2%
その他 9.2% 9.0% 13.2% 10.3%

第6表のデータに基にして、奈良県、大阪府、東京都の人々の納骨堂に対する人々の否定的な理由が全国平均からどの程度の乖離があるかを、指数を用いて分析する。
分析結果は第7表の通りである。全国平均を1として、1より小さい数値の場合は全国平均より低く、1より高い数値の場合は全国平均より高いことを示している。

第7表納骨堂に対する人々の否定的な理由の都府県別比較分析
選択肢 全国 奈良県 大阪府 東京都
先祖代々家族の
お墓があるから
1.00 0.94 0.92 1.01
お墓をずっと
継承してほしいから
1.00 0.80 0.92 0.84
宗派があるから 1.00 0.82 0.71 0.67
お寺などの
付き合いがあるから
1.00 1.44 0.98 0.70
お供えするものに
制限があるから
1.00 0.00 0.33 0.92
お参りする場所が
限られているから
1.00 1.11 0.72 0.80
納骨堂のデザインが
合わないから
1.00 1.75 1.43 0.93
周囲の環境、雰囲気が
気に合わなさそうだから
1.00 1.07 1.15 1.07
建物施設の運営、
維持管理に不安があるから
1.00 1.37 1.10 0.90
散骨希望 1.00 0.3 0.32 0.88
樹木層希望 1.00 0.57 0.78 1.13
墓不要、納骨不要 1.00 0.65 0.55 1.30
その他 1.00 0.98 1.43 1.12

第7表の分析から、納骨堂に対する否定的な理由について次のような結論が導出できる。

  • 1

    奈良県の人が納骨堂に対して否定的である理由のトップは、お寺との付き合いがあるからである。これは古都奈良の人々の感情として理解できる。しかし、第5 表の分析では奈良県の人が納骨堂に肯定的なトップの理由として「今のお寺などとの付き合い、宗派を変えたいから」があったことから矛盾するように思われる。しかし、これは、奈良県の人々の納骨堂に対する意見が、二分化してきていることを示していると考えられる。つまり、伝統的なお寺やお墓を敬う人々と、そのような古いしきたりにとらわれたくないという人々に、奈良県の人々は二分化してきていると見ることができる。つまり、奈良県で納骨堂のニーズを高めようとすると、お寺やお墓などの古いしきたりにとらわれたくないという人々にターゲットを絞り込むべきであると言える。

  • 2

    また、奈良県の人々が納骨堂に対して否定的な考えを持つ大きな理由の一つは、伝統的なお寺の運営・維持と比べて、納骨堂の運営・維持に不安を持っているからであると言える。ただ、奈良県の隣の大阪府の人々も同じ危惧をいだいている人が多いことわかるが、東京ではそのような危惧を抱く人は全国平均より低いことがわかる。

  • 3

    また、奈良県では全国と比べて、お墓をずっと継承してほしいという比率が、大阪府や東京都よりもさらに低くかったことは想定外の結果であった。

  • 4

    納骨堂に対する否定的な理由に関して、大阪府と東京都の人々の間にはかなりの相違があることがわかる。特に、お墓、葬儀、お寺との関係については東京都の人々の方が、合理的、経済的な考えの方が多いように読み取れる。

DATA
03
お墓の新規購入者のお墓の種類の推移

株式会社鎌倉新書が2021年2月16日プレスリリースした「お墓の消費者全国実態調査(2021年)」によると、お墓選びで最も重視したことは、第1位「お墓の種類(31.2%)」、第2位「自宅から霊園までのアクセス(17.8%)」、第3位「金額(12.2%)」、第4位「境内の雰囲気(7.3%)」、第5位「霊園の最寄り駅・バス停からの徒歩でのアクセス(5.5%)」であった。つまり、「お墓の種類」がお墓購入に際して最も重視される要因となった。それでは、現在の人々はどのようなお墓にニーズを求めているのであろうか。第8 表は上述の株式会社鎌倉新書の毎年行っている「お墓の消費者全国実態調査」によるお墓の新規購入者のお墓の種類の推移である。

第8表新規お墓購入者のお墓の種類(%)
  • 一般墓
  • 樹木葬
  • 納骨堂
  • その他
調査年 一般墓 樹木葬 納骨堂 その他
2017年 46.7% 24.9% 19.6% 8.8%
2018年 41.2% 30.0% 24.8% 4.0%
2019年 27.4% 41.5% 24.9% 6.2%
2020年 26.9% 46.5% 19.4% 7.1%

但し、一般墓とは屋外の墓地に区画を設けて設置する墓石型のお墓であり、樹木葬は屋外型の墓地で、墓域内を樹木や草花で飾ったお墓で自然葬、樹林墓地なども含むものである。また、納骨堂は主に室内にある棚式やロッカー式のお墓であり、堂内陵墓も含んでいる。その他は合葬などの永代供養墓、散骨、手元供養などのことである。第8表から次のような結論を導出することができる。

  • 1

    墓石型の一般墓地は激減してきている。

  • 2

    樹木葬は2019年からトップに立って、今後益々増加するであろうと推察される。

  • 3

    納骨堂については、近年増加傾向にあったが、2020年に初めて減少に転じている。
    この減少傾向は今後どうなるかはここ数年の経緯を見る必要があるが、樹木葬が増加するのであれば今後の納骨堂の需要増加には工夫が必要であろう。

DATA
04
お墓の新規購入者のお墓に対する金銭感覚

「お墓の消費者全国実態調査(2021年)」によると、樹木葬が増加してきている要因の一つに費用や手間の問題があると考えられる。つまり、樹木葬が増加してきている要因には、故人の希望、お墓の費用や維持経費が安価であること、維持に手間がかからないことなどが考えられるが、ここでは費用の問題を指摘する。前述の調査によると以下の通りである。

  • 1

    一般墓の平均購入価格は墓石代、土地使用料、管理費などを含んで169万円であった。そして、最多購入価格帯は80~119万円で約25%の人が購入していた。

  • 2

    樹木葬の平均購入価格は71.7万円であり、最多購入価格帯は60~79万円で約24.1%の人が購入していた。樹木葬は墓石代などが不要であるため一般墓の購入価格の半分以下の価格であった。

  • 3

    最後に、納骨堂の平均購入価格は91.3万円であり、最多購入価格帯は80~99万円で約36.8%の人が購入していた。納骨堂も一般墓と比べて約54%の費用で済むことになる。

DATA
05
他都道府県からの転入者数の推移

奈良県の人たちの納骨堂に対するニーズは、東京都とはかなりの相違があるが、隣接する大阪府とは若干の違いがあるものの大きな相違があるとは思われない。それで、次に奈良県、大阪府、東京都内に先祖から長年住んでいる人と、他の都道府県からの転入者の人たちとの間にお墓観、宗教観などの相違があり、そのことが納骨堂のニーズの相違の一因になっているのではないかという仮説をたてて、転入者数についての分析を行ってみる。

第9表他都道府県からの転入者数
調査年 東京都 大阪府 奈良県
人口 転入者 比率 人口 転入者 比率 人口 転入者 比率
(千人) (千人) (%) (千人) (千人) (%) (千人) (千人) (%)
1970年 11,408 668 0.059 7,620 383 0.050 930 55 0.060
1980年 11,618 491 0.042 8,473 227 0.027 1,209 57 0.047
1990年 11,856 453 0.038 8,735 190 0.022 1,375 46 0.034
2000年 12,064 444 0.037 8,805 179 0.020 1,443 35 0.024
2005年 12,577 438 0.035 8,817 167 0.019 1,421 28 0.020
2010年 13,159 396 0.030 8,865 151 0.017 1,401 26 0.019
2015年 13,515 426 0.032 8,839 156 0.018 1,364 24 0.018
2019年 13,921 427 0.031 8,809 161 0.018 1,330 22 0.017

第9表から次の結論を導出することができる。

  • 1

    東京都、大阪府そして奈良県も1970年から現在まで他都道府県からの転入者数は減少傾向にあり、奈良県の他都道府県からの転入者数の対人口比率は隣の大阪府とよく似た推移を示している。

  • 2

    東京都は長年に渡って、他道府県から転移してきている人口が、人数においても、人口比率でも多いことがわかる。つまり、東京都はよく言われるように人口の「一極集中」の土地であったと言える。

  • 3

    人口当たりの他都道府県からの転入者率に関して、奈良県は1970年、1980年には東京都や大阪府よりも高い値を誇っていたことがわかる。これは当時の奈良県が他都道府県の人々にとって魅力のある土地であったことの証拠であると言える。

  • 4

    奈良県の他都道府県からの転入者数の対人口比率は、1970年から2015年まで長年に渡って隣接する大阪府の比率よりも高いことがわかる。つまり、奈良県では大阪府と比べて人口当たり他都道府県からの転入者が多かったこと、言い換えれば転入に魅力を感じる県であったことが示されている。

  • 5

    以上のことから、奈良県は先祖から長年に渡って奈良県に居住する人々が多い反面、1970年頃から奈良県の他都道府県から人口の割に多い人数が転入してきていることがわかる。

まとめ
他都道府県からの転入者数の推移
分析から得られる結論
  1. 奈良県は、先祖から長年にわたって長年奈良県に住み続けている人々と、奈良県以外の都道府県から奈良県に住み着いた人の「二分化」が明確に生じている。そして、長年奈良県内に住み続けている人々は、他都道府県の人々と比べてお寺との付き合いを重視し、従来型の一般墓に強い愛着を感じている。他方、近年奈良県内に他都道府県から転入してきた人々はお墓、お寺、宗教には強い関心を持たず、一般墓などよりも納骨堂や樹木葬に関心を持っている
  2. 奈良県と隣接する大阪府と比べると、お墓、お寺、宗教に関する人々の関心、感情、ニーズについては、「納骨堂利用の肯定的な理由」については若干の相違は見られるものの、「納骨堂利用の否定的な理由」などその他の調査項目については、奈良県と大阪府の間には奈良県と東京都の間のような大きな相違は見られない。したがって、奈良県と大阪府の人々の納骨堂に対する需要量にかなりの差があるとすれば、それは人口の差であろうと推定される。つまり、納骨堂に対する奈良県と大阪府の人口に対するニーズの比率が同じような数値である場合でも、大阪府は人口が1,300万人を超えており、他方奈良県はその十分の一であるから、たとえ納骨堂に対する人々のニーズの比率が同じであっても、全体としての需要は奈良県では大阪府の十分の一に留まることになるのである。
  3. 奈良県と東京都との納骨堂に対するニーズについてはかなりの相違がみられる。例えば、樹木葬の希望、墓不要、納骨不要の比率が奈良県の2倍もあり、お墓、お寺、先祖、宗教などに関して東京の人々の関心は非常に薄れてきていることがわかる。つまり、奈良県と大阪府の人々のお墓、お寺、宗教についての関心、感情、ニーズは類似点が多いが、東京都の人々との類似点は少ないと言える。
奈良県において今後納骨堂のニーズを高める政策
  1. 前述のように、奈良県では先祖から長年にわたって奈良県に住み続けている人々と、奈良県以外の都道府県から奈良県に住み着いた人の「二分化」が明確に生じている。そして、長年奈良県内に住み続けている人々は、他都道府県の人々と比べてお寺との付き合いを重視し、従来型の一般墓に強い愛着を感じている。他方、近年奈良県内に他都道府県から転入してきた人々はお墓、お寺、宗教には強い関心を持たず、一般墓などよりも納骨堂や樹木葬に関心を持っている。したがって、奈良県内では他都道府県から転入してきた人々に絞って納骨堂のアピールをすべきである。そのためには、費用のかかる新聞の奈良県面に納骨堂の広告を掲載したりするよりも、奈良市百楽園、奈良市帝塚山、生駒市、王寺町などにある新興住宅街に絞って、個別にパンフレットなどの配布などを行うことの方が経費がかからず効果が大きいと考えられる。
  2. 第8表で分析したように、近年樹木葬の人気が急速に高まってきている。それで、霊園内に納骨堂と樹木葬の墓をセットで作ると、両方または一方に関心のある人が訪れて、その両方を見る機会をえることができるので、納骨堂、樹木葬に対するニーズも高まるのではないかと考えられる。
本分析を担当された、
経済学者 宮本勝浩さんのプロフィール
経済学者・宮本勝浩みやもとかつひろ
関西大学名誉教授
プロフィール
和歌山県出身。昭和20年生まれ。大阪大学大学院卒業。
「阪神優勝の経済効果」や「タバコ値上げの経済効果」、「東京五輪無観客開催による経済的損失」など、お茶の間の関心と経済学を結びつけた分析・試算などで関西のテレビ・ラジオ番組ではお馴染みの経済学者。
学歴
大阪府立大学経済学部卒業(昭和43年)
大阪大学大学院経済学研究科修士課程修了(昭和45年)
経済学博士(平成15年、神戸大学)
職歴
大阪府立大学経済学部教授、経済学部長、大阪府立大学副学長歴任後、
平成18年4月より関西大学大学院会系研究科教授。
専門分野
国際経済学、理論経済学、関西経済論、スポーツ経済学
学術論文
日本語、英語、ロシア語の経済学の論文を国内、海外の学術誌、学会で多数発表
本件に関するお問い合わせは
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